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「板金塗装屋さんの経営学と利益の出し方 パート2」

23.11.29

日車協連 調査研究委員長 泰楽 秀一

 新型コロナウイルスが出現してから気が付けば2年6ヵ月。パンデミックだと騒がれ世界中が混乱に巻き込まれた状況から、ようやく先が見え始め、いよいよ経済活動の活性化に向けた動きをしていく時期に差し掛かって参りました。ワクチン接種も4回目に入り、感染症のレベルを下げることやマスクを外していく議論がなされ、今後も感染対策をしていく必要はあると思いますが、2年半で得た教訓をもとにさらなる進化が期待できる世の中にしていかなければなりません。

 歴史を振り返っても様々な生物はその時点での環境に適応できた種が生き残り、適応できなかった種は絶滅しています。現代の社会や企業もまったくと言っていいほど同じで、過去も現在もそして未来も、いかに環境に適応できるかが存続繁栄のカギになることは間違いありません。ロシアの侵攻によるウクライナ危機においては先行きが不透明ではありますが、広い視野をもって何が一番大切で、何を優先して判断や行動を起こすべきか、一日でも早く間違いに気が付いて、取るべき行動を変えてもらいたいと願うばかりです。

 また、4月23日に知床遊覧船の事故が発生し、2人のお子さんを含む26人の尊い命が失われました。沈没した船は引き上げられ、これから事故の原因を究明し再発を防ぐために様々な調査や検証、仕組みの構築がされるとは思いますが、私たちにとって他人事ではありません。コンプライアンスに違反し管理体制は杜撰なままで、雇用条件などの影響で人員不足になり経験の浅い人を雇用せざるを得ない状況は、レベルに違いはあるものの私たちの業界にも当てはまる部分があります。

 昨年の飲酒による事故がきっかけで、今年10月から白ナンバーの社用車(5台以上)にもアルコール検知器によるチェックが義務化となります。私たちはカーユーザーの安全・安心を担保する責任がある以上、今回のような事故も自分事としてとらえ、今一度襟を正していく必要があるのではないでしょうか。

さて、今回は塗料を含めた材料代について解説していきます。

 材料代と聞いて皆さんがイメージを強く持たれるのは塗料だと思います。見積りを作成する際に、誰もが塗装作業に対して塗料を材料代として計上しているからでしょう。そして本来は仕入れ値に対して使用した分の原価を計算し、一定の利益率を掛けて見積りを作成するのが本来の姿かと思いますが、保険会社や見積り作成のシステムに誘導され、指数もしくは工数に12〜14%の材料代比率を計上するというまったく根拠がない方法が定着し、長く続いて参りました。前述の方法で利益が出ているのであればまったく問題ありませんので否定するつもりはありません。

 しかし、疑問を持たず現状把握しないまま見積りに計上している場合、原価割れして利益を圧迫している可能性が高いと思われます。ここ最近は原油の高騰により塗料の値上げが続いているため意識は高まっているかと思いますが、図1に示す通り2006年以降16年間で、一番多い塗料メーカーは計8回もの値上げをしており、2005年を1とした場合に約2.6倍の価格になる塗料もあります。

 ここ最近では保険会社との交渉にて18%前後で合意しているケースも見受けられますが、レートや対応単価が大きく影響しますので、このタイミングで実際の原価がどれくらい掛かっているのかを把握することを強くお勧めします。各塗料メーカーは今までの値上げの理由を原油高騰による原材料費の値上げや輸送コストが上昇したためと案内しておりますが、ウクライナ危機による影響は見込んでいない状態だと言います。今後もさらに値上げが進む可能性が高いとすると注意が必要です。

 釈迦に説法とは思いますが、補足をすると計上する材料代は塗料、シンナー、硬化剤だけではありません。ポリパテから仕上げの洗車に至るまでの工程を塗装作業の一環として扱うのであれば、下地やマスキング、調色、磨き、洗車作業などに使用する材料をすべて含んだ原価を把握して計上に反映します。塗装指数での加算基礎数値の範囲を理解すれば上記の内容が含まれることとなりますので、しっかりと把握して正しい材料代比率を算出してみましょう。
 塗装の範囲だけでも材料をたくさん使用していますが、材料代はそれだけではありません。板金でもパテやサンドペーパー、溶接用のワイヤやガス、スポットカッターなどを使用しているはずです。塗装ほどではないとは思いますが、こちらも原価を把握して計上する必要があります。

 また、材料代とは少しニュアンスは違うかもしれませんが、ショートパーツについても勘違いされている方が多いように思います。ショートパーツをクリップ類だと認識して純正部品の細かい部品を計上せず、ショートパーツとしてまとめて計上されている見積りを目にすることがあります。間違ってはいけないのはクリップでも純正部品として仕入れて取り付けるのであれば、しっかりと部品で計上するべきです。
 もし、社内在庫や大量に購入して単価が小さ過ぎる部品であればショートパーツに含めても良いとは思いますが、本来のショートパーツは潤滑剤やパーツクリーナー、それらを拭き取るためのウエス、緩み止めの割りピンや接着剤のことを指します。板金塗装では少量の両面・ブチルテープなどもショートパーツに含まれることがあると思いますが、シーリングは別途計上していることを考えると使用する量によっては個別に計上したほうが良いかもしれませんね。
 板金塗装全般に関わる材料代の解説をして参りましたが、まずはしっかりと原価(コスト)を把握することです。昨今は仕事量の確保が困難になっており、思うように売り上げが伸びないとなると無駄なコストを削減し、請求漏れをなくしていくことが大切です。
 また、注意が必要なのは個別計上だけが方法ではないということです。部品と同様に材料代として仕入れた場合は個別計上ですが、消耗品や他の項目で経費にしている場合はレーバーレートに含みます。計上することばかりに目を向けてしまうと二重計上になってしまいますので気を付けましょう。

パンデミックや戦争という想像もしなかったことが世界情勢を混乱させ、その影響で納期の遅延や原価高騰による値上げラッシュとなるとどうしても注視してしまいます。しかしながら自動車業界の100年に一度の変革期は着実に、そして変化も加速しながらあらゆる方向に進んでいます。カーボンニュートラルに向けてEV化に進んでいるばかりか、2024年には空飛ぶ車がロサンゼルス空港から近郊都市へのタクシーとして運用される計画もあり、トヨタやあいおいニッセイ同和損保が多額の出資をしています。業界としてもしっかりと動向を見据えながら、変革期に乗り遅れないための準備が必要ではないでしょうか。