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連載第12回「板金塗装屋さんの経営学と利益の出し方 パート2」

23.11.29

日車協連 調査研究委員長 泰楽 秀一

新型コロナウイルスによる第7波が猛威を奮い、1日当たりの全国新規感染者数は過去最高の26万人を超えました。ピークアウトのタイミングがいまだに見えてきませんが、近親者で陽性者や濃厚接触者に該当し自宅療養や待機を余儀なくされるケースが増えており、改めて感染対策や行動を見直さなくてはなりません。私たち車体整備業は労働集約による生産が必須であるため、テレワークなどを導入しにくい業種です。ご自身も含めて自社の業務や営業に甚大な影響が出ることのないよう、体調管理には充分お気をつけください。

そのような状況ではあるものの、日本政府は経済活動を両立させるために行動制限による人流抑制をしなかったことで、全国各地でおよそ3年ぶりに様々なイベントの開催や休暇での帰省、レジャーで楽しんでいる姿がありました。全国の皆さんが間違いなく心待ちにしていたことであり、人として生きていくためには一定時間リフレッシュすることがとても大切であると改めて実感しています。感染対策を注意喚起しておきながら矛盾したことも感じておりますが、今後は限定された方々に負担が集中せず、いかにバランスを取りながら感染対策と経済活動を両立させるかです。これは日本全体の話ではなく、私たち一企業にも求められることとなりますので、今一度自社がどのようなことをするべきか考える必要があるのではないでしょうか。

また、いまだにロシアによるウクライナ侵攻は続いており、私たちにとっても他人事ではありません。原油を含めた物価高騰は今後も続くと予測され、7月には物価高による倒産数が過去最高を記録しました。主に運輸業や建設業が多くを占めていますが、今後は小売・卸売・サービス業の特に中小・零細企業での物価高倒産が増えると予測されています。倒産の理由が原価の高騰を消費者や取引業者に転嫁できなかったことは明確であり、今までもこの連載でお伝えしましたが、改めて健全に経営をするための適正な利益を確保するための価格転嫁がいかに重要かを認識していただきたいと強く思います。

さて、今回は室内クリーニングを含めた除菌・消臭作業代について解説していきます。その前に、皆さんは普段から指数を使用する際に、作業する車両に対する前提条件として標準車両の状態が定められているのはご存知でしょうか? ご存知の方が多いとは思いますが、改めておさらいをしてみましょう。

・自研センターの定める標準条件
 標準車両:1〜2年使用(2〜3万km走行)した一般的な損傷程度の損傷車両で、汚れ、さびなどは軽度の状態の車両 ※1

他にも作業者、工場、部品、作業速度などが標準条件として定められていますが、指数を使用する際には車両も含めた標準条件に合わない場合、割増や割引が必要になります。標準車両を例にすると、部品の脱着や取替を行う際、5年使用で5万km走行していると錆や汚れが標準車両より付着しており、作業効率に影響する部分は一定程度割り増しする必要があります。また、別の方法として当社では車両の汚れに関してできるだけ標準車両に近づけるために、主に下回りのスチーム洗浄を行い別項目にて費用計上しています。

このように、標準車両における脱着取替指数の例だけでも実際の修理費や見積額に大きく影響することは言うまでもありません。知っているだけでは行動していないのと変わりありませんので、しっかりと理解して行動につなげていきましょう。

また、自動車保険における復元修理は事故発生直前の状態に復旧させること(※2)であり、そのために性能、安全性、耐久性、美観、経済性の回復・確保を5原則として念頭に置いて修理することと定められています。この「自動車保険における復元修理の5原則」(※3)は次号で詳しく触れますが、事故発生直前の状態に復旧することが求められている以上、室内クリーニングは必要不可欠な作業と言えます。決してすべての作業に対して必要というわけではありませんが、ドアやクォーターパネル、トランクやガラスなど室内の気密を確保する部品の脱着や取替をする際に、どんなに注意しても作業中にホコリや汚れが付いてしまいます。室内の部品に直接関連する作業であれば、二次的な被害が出ないように保護もしなくてはなりません。ホコリや汚れが付着しないように養生シートなどで塞ぐこともできますが、どちらにしても時間や労力、さらには一部材料を使用する以上は計上漏れ、請求漏れがないように注意していきましょう。

そして、もう1点漏れやすいのが塗装作業後の脱臭・消臭作業です。大半の事業所で有機溶剤系塗料を使用していると思いますが、VOC(揮発性有機化合物)を低減する自動車をメーカーが製造(※4)している以上、悪臭防止法の観点からも車室内のVOCを何らかの方法で低減させてから完成車両を納品しなくてはなりません。事故発生直前の状態に復旧するとは、このような作業も含まれることを改めて認識をする必要があります。様々な施工方法に対して使用する機材や材料、そこに費やす時間を原価計算して個別に計上していきましょう。

昨今、新型コロナウイルスが蔓延し感染者も日々増えている状況です。私たち車体整備事業者は事業活動に対して大きな影響は出ていないとしても、それぞれに店頭やお客様対応時に感染拡大を防止する対策をされていることと思います。当然、入庫車の除菌・消毒も徹底されていると思いますが、2つの視点で重要な作業としての認識が必要です。

1点目は、雇用主として従業員を感染させないように「安全配慮義務」を負っています。労働契約法上、「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」となっており、義務違反をした場合は損害賠償の責任を負う可能性があります。コンプライアンスはとても重要ですので、それに対する原価を価格に転嫁することは至って普通なことと言えます。

2点目は事故発生直前の状態に復旧する観点から、完成車両にも除菌などの作業をしてからの引き渡しが求められます。以前「ボデーショップレポート」で掲載されていましたが、除菌などによるコロナ感染対策の扱い方が世界的に議論されており、工数や価格、施工方法などに差はあるものの、判例を含めて必要性については認識が高まっているように思います。アジャスターから「飲食店でも請求しないでしょ」と聞かされた時には残念な気持ちになりましたが、何が世の中のスタンダードなのかを自分たちで構築していくことの難しさを改めて感じることとなりました

今の時代、世界中で起きていることは対岸の火事で済まされません。数年前に過熱した電力の自由化により設立された新電力会社は700社以上ありましたが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で約600社が倒産・撤退しています。私たちも他人事ではありませんので、打てる手はすべて行うことで必ず乗り越えていきましょう。次号は「自動車保険における復元修理の5原則」を踏まえて、スキャンツール診断料を解説して参ります。

※1 自研センター発行 アジャスターマニュアル乗用車編P611より抜粋
※2・3 同P392〜393より引用
※4 日本自動車工業会ホームページ 「車室内VOC(揮発性有機化合物)低減に対する自主取り組み」参照