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「板金塗装屋さんの経営学と利益の出し方 パート2」

23.11.29

日車協連 調査研究委員長 泰楽 秀一

私が本連載を執筆している、11年前のこの時期に東日本大震災が発生し、福島第一原発の事故も含めて1万8千人を超える犠牲者を出すこととなり、改めて哀悼の意を表するとともに決して風化させてはならず、私たちは普段と変わらない日常生活が送れていることを当たり前と思わず、感謝の気持ちを忘れてはならないと感じます。しかしながら、世界に目を向けるとロシアがウクライナに軍事侵攻し、本来失われることのなかった多くの命が奪われております。一部の人間が、自身の利権や自分本位な考えの下で起こす行動に正当性を唱えている状況に憤りを感じ、なぜ人は歴史から多くのことを学んでいるのに負の歴史を繰り返してしまうのか、人としての在り方を改めて考えるとともに、せめて世界中の人たちが自分の手が届く範囲だけでも「人のお役に立つ」生き方をして、平和な世の中を目指してほしいと願うばかりです。

 そして、いくら望んでいない状況であっても戦争の影響は避けられません。近年、レギュラーガソリンの単価は平均150円/?で推移し、2020年5月には125円/?まで値下がりしてから現在まで上がり続けています(図1)。

 岸田内閣が石油元売り会社へ補助金を投入して172円/?を維持すると発表しましたが、補助金の額が1?当たり5円から25円に増額されたことを見ると、ウクライナ危機の影響で異常な事態だと言えます。報道で「原油価格が1バレル140ドルに達しました」と聞いてもピンとこないのではないでしょうか。1年前に1バレル64ドルだった時のレギュラーガソリンが148円/?だったことを考えると、補助金がなかったとしたら200円/?をはるかに超える価格になっており、石油を材料とした商品を多く扱う私たちの業界にとっては敏感に察知して仕入れや使用方法、顧客へのサービスの見直しを図らなくてはなりません。
 日常生活にかかわる多くの商品が値上げをしている状況とはいえ、理由もなく安易に価格を変えることはビジネスのあり方として良くないとは思いますが、世の中が混乱している時こそどうすればコストを下げられるのか、どうすれば高い品質を維持した商品やサービスを提供し続けられるのかを考え直すきっかけにつなげていきましょう。

 さて、今回は写真代について解説いたします。全国の方のお話をうかがっておりますと、500〜2,000円の範囲で請求されている方が多いように感じます。中には「画像伝送システムを使用しているから認められない」と言われて、請求できていない方もいらっしゃると聞いています。
 撮影にはカメラやSDカード、印刷では用紙やインクなど大きくはありませんが原価がかかります。また、連載当初に記載しましたが、何より撮影するのに労力と時間がかかり、1枚撮影するのに20秒かかります(当社調べ)。作業余裕時間を考慮して、30秒で1台当たり30枚撮影すると15分の工数になります。
 仮にレーバーレートが6,000円だとすると1,500円になりますので、皆さんの請求額はおおむね妥当な値付けと言えます。毎月50台規模の入庫があるお店ですと、請求できていない、もしくは値引きをしている場合は年間90万円の損失になります。

 皆さんにお聞きしますが、そもそも写真は誰のために撮影をしているのでしょうか?

 自社の作業記録、納車後のクレーム防止、お客様に作業途中も含めた説明、品質保証、スタッフへの教育ツールなど、それぞれだとは思います。しかし自社で使用するならともかく、お客様のためにしていることであってもなかなかお客様には請求できませんよね(当社でもしておりません)。ただし、保険会社やアジャスターのためではないことは確かであって、工数をかけて作業したことを無償で提供する理由はありません。
 保険会社は、契約者から修理内容や保険金算定及び支払いに対する説明を求められた場合、分かりやすく丁寧に対応することを金融庁のガイドラインに定められています。そのためには写真が必要で、アジャスターが会社の指示で収集し、レポートに添付して提出しています。本来、保険会社に提出している写真はアジャスターが入庫から出庫まで、作業途中も含めて写真を収集する必要があり、私たちは保険会社が膨大に費やす必要のある時間と労力を代行していることになります。
 話は脱線しますが、似たような状況が車検制度にもあります。自賠責保険は大半が保険会社の収入となりますが、保険会社は契約者への営業・管理にほとんど労力を費やさず、私たちが発行から管理までを代行しています。それでも1,600円/件の手数料があります。重量税も、私たちが国を代行して集金、印紙として納めておりますが、定期的な仕事として制度に守られているメリットがあります。

改めてお聞きしますが、皆さんの大切な労力という資源を無償で提供できますか?

他の項目などでもありますが、「お客様には請求せず、なぜ保険会社だけに請求するのか」という話を耳にします。代車や洗車などと同様に、お客様にはリピーターになってもらうための先行投資としてサービスすることはあると思います。DRPは別にしても、リピートしていただける可能性が著しく低い場合にはサービスできないことが、社会通念上当たり前なことは明白ですね。

 3ヵ月前は感染者数が減少し、終息が見え始めていると思っておりました。しかし、オミクロン株で感染者は急増し第6波、もしくはオミクロン株も変異し第7波まで騒がれており、今後は終息ではなく共存した生活をしながら経済をどのように動かしいていくかの議論に変化しています。次のステージを見据えるタイミングではないでしょうか。
 そして、ウクライナ危機からさらに原油高騰の影響を受け、本連載のスタート時にお伝えしたスタグフレーションが現実になりました。材料代の値上げも含めたあらゆるコストが高騰する可能性が高いです。注意を払いながらできることを即行動に移しましょう。