日車協連 調査研究委員長
泰楽 秀一
この記事が組合員の皆様に届く頃には2023年、令和5年の新年を迎えられ、新たな気持ちでとても良い1年のスタートを切られていることと思います。新年の行事として初詣をされる方も多いのではないでしょうか。真剣にお参りされている姿を拝見すると、今年の安全や健康への祈願、1年の抱負や目標を頭の中で唱えていらっしゃるのかと想像してしまいます。
以前に読んだ記事で願望と目標の違いが書かれていました。願望とは頭の中で想像している「こうなったらいいなぁ」という状態で、それを紙などに文字として書くことで初めて目標になるそうです。これをすることで達成する確率が1.4倍になるという統計データがあることを考えると、いかに見えるようにして意識を高めていくことが大切なのかと改めて感じます。紙に書き出した目標に対して行動の計画を立て、周囲の人と共有し、進捗も管理する上で共有を繰り返すとさらに達成確率が上昇するとなれば、個人的なことも含めて事業を推進する上では必ずやっていく必要があるのではないでしょうか。
ハーバード大学の調査によると、目標がない、目標を持っているが紙には書いていない人に対して、目標を紙に書いている人の平均収入は10倍だったそうです。さすがに10倍は大袈裟かもしれませんが、行動するだけの価値はありそうですね。当社でも年頭行事として、スタッフに今年の目標と達成するための具体的な実行策を書いて宣言をしてもらっています。良かったら試してみてください。
また、コロナの第8波やウクライナの影響はまだまだ続きそうですね。物価の高騰や値上げのニュースを含め、日本中の企業全体が不確実性の高い状況から抜け出せそうにありません。そのような中でも、私たち中小零細企業は事業を継続するためにコスト意識を高めていかなくてはなりません。
労働集約のビジネスは特に人件費が最大のコストになりますが、最近イーロン・マスク氏がTwitter社を買収し、最高経営責任者就任と同時に9人の取締役を全員解任し、従業員の半数を解雇するという暴挙とも言える行動に出たことはご存じの方も多いと思います。しかし、これが暴挙かどうかの判断は難しいと感じています。人件費の比率が大きく、年間300億円超の赤字をどう解決するかの見通しが立っておらず、ほとんどの収入源が広告に偏っていることも改善が必要とされていたためです。
人件費率が高く、下請けの依存度が高い私たちの業界に似た状況ととらえると、近い将来に同様なことが起こり得るとも言えます。イーロン・マスク氏は全社員に「退職するか2倍働くかを選択しなさい」と発信したそうです。リストラを肯定はしませんが正論であり、同様なことが自社で起こらないように物価高によるコストを意識し、人件費をしっかりと支払えるだけの収入(利益)を得るための行動が求められるのではないでしょうか。
さて、今回は「自動車保険における復元修理の5原則」を踏まえて、スキャンツール診断料について解説していきます。
・自動車保険における復元修理の5原則※1
㈰性能の回復
㈪安全性の確保
㈫耐久性の確保
㈬美観の回復
㈭経済性の確保
自動車保険における復元修理は事故発生直前の状態に復旧させること(※2)であり、そのために性能、安全性、耐久性、美観、経済性の回復・確保の5原則を念頭に置いて修理するという定義は前号でも触れました。たとえば㈰性能の回復では車の基本性能である「走る、曲がる、止まる」だけでなく、「振動、乗り心地、空気調和、居住性」に至るまで失った性能を事故直前の状態に回復しなければなりません。単純に損傷部位の修理・交換だけでなく騒音や振動についても原状回復しているかを充分に確認し、乗り心地についても配慮する必要があるため一定の労力による工数が必要となります。
また空気調和や居住性については、カーユーザーが事故直前と同様に快適に車室内で過ごすことができるまで回復させる必要があります。以前、作業による二次被害の防止や悪臭防止、さらには空気調和には病原菌等による健康への影響も含まれるため、除菌なども復元修理の原則に基づいた必要な作業であり、掛かる工数としての費用請求はごくごく当たり前のことと言えます。
そして、今回のスキャンツールによる診断料は㈪安全性の確保に該当します。現在の国産乗用車はモノコックボデーが主流になり「FMVSS」(※3)や「道路運送車両の保安基準」等の法的規制、さらには「NCAP」(※4)に準拠した安全対策が施されています。事故により損なわれた安全対策部位は「復元修理」によって安全性を回復・確保しなければならないとすると、電子制御が多く搭載されている以上、事故による原因かどうかを判断するために入庫時にスキャンツールで診断しなければなりません。目視では確認できず、事故によるものか過去の履歴かによって修理に大きく影響するとともに、自社のクレーム防止にも対応しなくてはなりません。
また、板金塗装を医療に置き換えると外科手術となりますが、CTスキャンやMRIで診断せずにいきなり手術室でメスを持つことはありえません。そして法改正により電子制御装置整備がスタートし、エイミングの前提条件にボディー&ホイールアライメントによる車体やタイヤのスラスト角が0°かどうかの確認も、施術前にミスやリスクを軽減するために必要不可欠だからこそ、国土交通省も特定整備のQ&Aで記載しているのだと思います。 当然、術後の経過観察をするために様々な検査をするわけですから、作業完了後にも当然確認のための最終チェックが必要と言えます。高額なボディー計測装置及び修正装置、4輪アライメントテスターは投資しにくいとも思いますが、設備の共用が認められているので外注作業としてしっかりと作業するべきですし、スキャンツールは特定整備の認証工具ですので、必要な投資として設備と掛かる時間をしっかりと請求していきましょう。㈭経済性の確保は他の定義と異質ではありますが、㈫耐久性の確保や㈬美観の回復は普段されている作業などに当てはまる部分がありますので、ぜひお考えいただけたらと思います。
このたびは調査研究委員会にて材料代の実態調査に対して、多くの組合員の皆様にご理解いただきご回答をいただきまして、この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。高い回答率であったことは全国の皆様からの期待も大きいものであると認識しており、他の委員会テーマも含めましてしっかりと成果物をお返しいたしますので、これからも期待にお応えできる委員会活動を目指して参ります。よろしくお願いいたします。
※1・2 自研センター発行 アジャスターマニュアル乗用車編P392〜393より引用
※3 FMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standard):連邦(米国)自動車安全基準
※4 NCAP(New Car Assessment Program):エヌキャップ、自動車アセスメント