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団体交渉復活 その経緯と方針

23.11.29

 日本自動車車体整備協同組合連合会は、第42回通常総会において、1994年(平成6年)以降、行われていなかった時間あたりの工賃単価(以後、工賃単価)について、保険会社各社と団体交渉を行う方針を示した。実現すれば、およそ30年ぶりとなる。現在、調査研究委員会を中心に団体交渉開始に向けた準備を進めている。交渉を取り仕切る泰楽秀一調査研究委員長に話を聞いた。

■団体交渉に至った経緯

30年近く組合が団体交渉を行ってこなかったのには理由がある。1994年10月24日、公正取引委員会は日本損害保険協会に対し、「会員が損傷自動車の修理工賃を算定するに当たって指数方式を用いる際の対応単価について、全国の標準となる対応単価及び都道府県ごとの対応単価を決定し、これを会員に実施させてきた疑い」があるとし、当該行為が独占禁止法8条1項(一定の取引分野における競争を実質的に制限すること)に抵触しているとして警告を行った。

 時を同じくして公正取引委員会は日車協連に対しても、修理料金算定状況を調査した結果、独占禁止法第8条に抵触するおそれがあるとして注意を行った。事態を重く受け止めた日車協連は1994年10月27日付けで傘下の組合員宛に「独占禁止法の遵守について」と題した文書を送付。次のようなことを禁じた。

1. 組合が、 修理料金を算定するに当たって、 「指数方式及び対応単価」 を用いて算定することを組合 (団体) として決定すること。

2. 損保業界と組合が、 修理料金を算定するに当たって、 指数方式及び対応単価を用いて算定する際の 「対応単価」 を団体間で決定 (協定) すること。

3. 修理料金を算定するに当たって、 組合員に対して組合が作成した指数 (工数表等)の使用を強制すること。

4. 修理料金を算定するに当たって、 組合で単価 (レバーレート等) 及びその目安となるものを決定すること。

この文書を通じて工賃単価について組合で団体交渉できないとの認識が広がり、損害保険協会が出した「独禁法に違反するおそれがあると指摘された問題点については抵触することのないよう徹底していきたい」という声明と歩調を合わせることになった。

それからおよそ30年。人件費、材料費、環境対応、ADAS対応に伴う設備投資など、30年前とは経営環境が大きく変化し経費負担が大幅に増えた。一方で、それらを工賃に反映しきれない事業所が多く苦しい状況が続いていた。

そうしたなかで2023年3月2日、公明党の西田実仁議員が物価上昇に伴う価格転嫁について質疑を行った。西田議員は、保険修理における自動車整備工場と損害保険会社の取引関係が下請け関係に近いと指摘。その上で保険修理において、今般の物価上昇や労務費などの上昇分を転嫁できるよう、また、金融庁などにその状況を注視するよう求めた。

日車協連は、西田議員の質疑を工賃単価交渉に向けたまたとない機会と考え、公正取引委員会に価格転嫁の方法や手段について相談に赴いた。その席で公正取引委員会から、思わぬ提案を受ける。中小企業等協同組合法の独占禁止法適用除外規定を利用して団体交渉をされてはどうかと言うのである。

小倉龍一会長、市川清経営委員長に帯同していた泰楽調査研究委員長は当時の心境について、「当初、西田議員の質疑を受け個社ごとに保険会社とどのような交渉ができるのか、その戦術を相談するつもりで(公正取引委員会に)訪問したのだが、まさか団体交渉を勧められるとは夢にも思わなかった」と述懐する。こうして日車協連は工賃単価を保険会社と団体交渉を始めるべく準備を進めることになった。

■現在取り組んでいる課題について

公正取引委員会から工賃単価について団体交渉を勧められた日車協連は、全国中小企業団体中央会から弁護士の紹介を受け、打ち合わせを行った。その結果、日車協連から保険会社に対して工賃単価について団体交渉していくことが可能であるとの見解が示された。同時に、団体交渉を進めていく上で必要な事柄も分かってきた。

その一つが、「団体交渉にあたり組合員の資本金と常時雇用している従業員の数」である。

これは団体交渉などの組合行為について独占禁止法の適用除外を受けるための条件として中小企業等協同組合法に定められている。

 鈑金塗装工場のようなサービス業の場合、資本金の額又は出資の総額が5,000万円を超えないかつ、常時雇用する従業員の数が100人を超えないことが条件になっている。この条件を上回る事業者が組合員にいる場合は、その事業者を公正取引委員会へ届出する必要がある。今回はこれに加えて、公正取引委員会より日車協連に所属している鈑金塗装工場全体の規模を知りたいとの要望があり、全組合員の資本金または出資金と従業員数を報告することになった。

二つめが「保険会社との取引関係の証明」

この書類は収集が終わっている。書類の内容は、修理工場と保険会社が車両の修理について価格交渉を行った経緯が分かる見積書、修理工場が保険会社に対して発行した請求書、それを受けた保険会社からの支払案内が揃った事案を複数件用意するというものである。

目下、日車協連は組合員数と従業員数の確認を急いでいる。書類が整い集計が終わり次第、公正取引委員会に提出し団体交渉に向けた事前相談を行う予定だ。「組合員全ての協力が必須であり、これをいかにスムーズに進められるかで具体的な団体交渉に入れる時期が決まる状況です。工賃単価を上げることは全組合員に恩恵があります。どうかアンケートの趣旨を理解いただき、ご協力をお願いします」と泰楽調査研究委員長はアンケートへの協力を訴えた。

■団体交渉の内容と方針

工賃単価の見直しについて、2段階で考えている。まず初めに組合員全体で遅れている価格転嫁について引き上げを求める。各事業所が現行で取引している工賃単価について一律で15%以上を目指す。数値の根拠は企業物価指数の前年比上昇率(9.3%)に加え、春季労使交渉の平均賃上げ率(3.58%)などを勘案して計算した。その上で、将来的には工場資格や規模などの条件からクラス分けを行い、クラス毎の最低料金を取り決めていく方針だ。泰楽委員長はその意図について「2段階としたのは、まずは組合員全体で不足している価格転嫁の最低限のところを確保し、そのうえで各工場の状況に応じた最低限の価格設定を示していきたい」と説明する。

工場のクラス分けは、日車協連として、最低限の工場のあり方と、目指すべき理想の姿を示すものとなる。日車協連は業界の将来を見据え、広く組合員と話し合いながら時間をかけて議論していく構えだ。