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連載 最終回「板金塗装屋さんの経営学と利益の出し方 パート2」

23.11.29

日車協連 調査研究委員長
泰楽 秀一

ロシアがウクライナ侵攻を始めてから2月24日で1年となりました。今では両国で10万人を超える死傷者が出ており、心を痛めている方も多いかと思います。また、全世界がこの戦争により大きな影響を余儀なくされており、エネルギーコストやトウモロコシ、小麦などの一部の食品は今でも高騰し続けています。

振り返れば2021年以降、コロナ禍による物流の混乱や経済活動の再開による需要の回復などから高騰し始め、この戦争をきっかけにさらに上昇しました。これに加えて、円安が進んだことで輸入コストも増加し、昨年は食品メーカーを中心に値上げの動きが広がりました。当然のことながら消費者物価指数も上昇が続いており、今年の1月は上昇率がおよそ41年ぶりの記録的な水準となっています。
 意外な影響を受けているのは、ノルウェー産のサーモンがロシア上空を避けて迂回した飛行ルートで運ばれているため、輸送コストの上昇で3割の値上げとなっているそうです。ある回転寿司では1皿270円が360円に値上げされており、サーモンと言えば子どもが大好きなネタですので、そのご家族の気持ちを思うとお察しする他ありません。

このように直接的だけでなく、間接的にも広い範囲で影響が出ており、私たちも事業を推進していく中であらゆる可能性や今後の動向を予測し、情報収集もしながら仕入れやコストに対する意識を高めていかなくてはなりません。特に、原油を原材料とする商品や材料は昨年もさることながら、今年も値上げされる可能性が高いです。また、4月より各電力会社が国に対して値上げの申請をしており、電気やガスにも注意を払う必要があります。そして、先ほどのサーモンではありませんが、間接的に物流コスト上昇による値上げもあることを考えると、一度すべての取引先を棚卸しして仕入れを確認、評価を見直して、早めに交渉できる準備が必要かと思います。

そして、一番の課題は物価上昇によるインフレが起こっている状況に対して、岸田総理が発言されたインフレ率を上回る賃上げの要請です。簡単に言うと4%以上の給与アップをしてくださいということで、ご家庭内での物価上昇により出費が4%程度増えているので、それを上回るだけの給与を増額して、各企業が補填してくださいということです。当然、この場合は手取り額でということになりますので、手取り30万円の人には1.5万円程度の増額が必要になります。同程度のスタッフの方が4人の場合は約6万円となり、年間72万円の支出が増えます。

この原資を生み出すとすると、およそ200万円の収益を増やさなくてはなりません。利益率50%の商品を販売するとなると、400万円の仕事を増やすことになるわけです。皆さん、いかがでしょうか。

単価10万円の仕事を月3〜4台増やすことが可能であれば問題ありません。しかし、それ以外にも仕入れ価格の見直しや、原価に対してしっかりと請求できる環境を整えること、そして単価を上げることでも実現は可能です。極端かもしれませんがスタッフが4人の場合、レーバーレートを250円上げることでも上記のことは実現できます。

調査研究委員会では、日車協連のホームページに「レーバーレート診断レポート」を設置してあります。様々なことが起きており、この先も不透明であるからこそ、しっかりと足元を固めて今だからこそ勇気をもって価格の交渉をするべきではないでしょうか。

ここで改めて、調査研究委員会の今までの取り組みと今後の展望をお伝えしたいと思います。

令和4年度はテーマを3つに絞り、それぞれのチーム編成で活動をして参りました。

1.レーバーレートチーム

上記した「レーバーレート診断レポート」を中心に、1社でも多くの組合員の皆様に自社のレーバーレートの算出をしてもらう啓蒙活動をしてきました。今後は算出のサポートや診断レポートのオプション機能、レーバーレートのモデルケース作成などを計画しています。

2.廃棄物チーム

一般廃棄物としての取り扱いを推進し、各地にて費用請求の実現に向けて取り組みを進めて参りました。今後は、廃棄物の費用計算の仕組み化やポスターによる啓蒙活動、さらにはSDGsの取り組みにも発展させていく予定です。

3.材料代チーム

材料代の高騰による実態調査を実施し、塗料メーカーや塗料販売店との協議を経て、適正な利益が得られる材料代比率の水準を示すことができました。また、実態調査において板金に関する材料代や塗装材料費での副資材の計上の必要性を認識し、次年度では実際の比率を検証し、データ化したものを配信していく予定となっております。

また、外に向けた活動として適正な利益が得られる団体として、令和5年度は大幅に予算計上をしながら、料金に対する課題解決のために迅速に活動して参ります。

令和4年度の活動も、残すところわずかとなりました。次年度以降もしっかりと活動し、組合員の皆様に組合の存在意義が感じられるようにして参りたいと思います。

冒頭にも記載しておりますが、今現在、原材料等の高騰により、ありとあらゆるものが値上がりをしています。決して便乗ではなく、約30年前より価格を変えることができなかった私たちの業界が、すでに一般社会から見ても異常と言えます。そして値上げが社会から容認されやすいチャンスが今である以上、今年は勝負の年とする必要があります。

私の連載は今回を持って一区切りとさせていただきますが、今後も料金について組合の中心事業として進めて参ります。そして、その成果をいち早く皆様にお届けできるよう邁進して参りますので、今後ともご理解、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

長きにわたりご愛読いただき、ありがとうございました。