日車協連の小倉会長・定光理事・小林青年部会長・斎藤技術委員・泰楽は、テュフラインランドジャパン・プロトリオス主催のドイツ視察ツアーに参加して参りました。また、今回のツアーについては日車協連で企画し、連合会の理事を中心に参加の呼び掛けをさせていただきましたが、有志により自費で参加したことをお伝えいたします。
視察の目的は
世界最大級のカーアフターマーケットの見本市であるアウトメカニカの視察
・ドイツの車体整備業界の変遷を理解し、日本との差異や類似性を学ぶ
・業界知識だけでなく、ドイツの車体整備工場を見学し、現地の実際を確認する
・組合員外の同業ツアー参加者や、周辺業界の参加者と同じ知識・経験を得ることによってそれぞれの立場で業界の将来像を模索する
などです。
アウトメカニカの印象
アクサルタの全自動調色機(左)と、EVのレッカーキット
アウトメカニカはフランクフルトで2年おきに開催されているカーアフターマーケットの見本市で、今回は世界80カ国から4,200社の出展があり、320,000m2の規模があります。その中から車体整備事業に関係が深いホール11を中心に見学しました。
結論から申し上げますと、明らかに人手不足に対応するためのロボット化や自動化を意識した出展が目を引きました。調色・塗装・サンディング・スポット溶接で自動化が進んでおり、具体的なプロダクトとして具現化されていました。
また、ヨーロッパ市場では急速なEVの普及の影響があり、EVに対する意識の差を感じました。事故を起こし、駆動用のリチウムイオンバッテリーにダメージが疑われる車両を、水没させてレッカー移動や保存するためのキットや、高電圧回路(日本では低電圧の扱いになっていますが)に漏電の恐れがあることを周囲に警告するための柵の設置や警告標識による掲示など、細かい決まりがあるそうです。それも、ただ、決まりを守るだけでなく、詳しくは後述しますが、各事業所が工賃単価にしっかりと反映させています。
DATによるプレゼンテーション
ドライブスキャンで車両の表面状態を読み込み、自動で見積するシステムのようす
DATはアウダテックスとならび、ドイツでは大手の見積もりソフト会社です。ドイツではこの2社でシェアの7割を握っているそうです。
アウトメカニカでも出展しており、ドライブスキャンという門型洗浄機ほどの大きさのスキャナーで車両表面のダメージを計測し、自動で見積もりを作成する機能や、音声認識による自動見積もり機能を紹介していました。
同社の説明によると、日本と大きく異なるのは、カーメーカーがそれぞれの工数を、カーメーカー、保険会社、車体整備事業者の三者にとって資本関係が全くない第三者機関に作成を依頼し作成されたものを採用しているので、日本と比べて納得感のある制度設計になっていると感じました。それ以外にもサービスマニュアルや車両の残価、音声認識の半自動見積り作成機能など、関心度が高い。またDATは日本車を含む右ハンドルの開発を進めたいと考えており、個人的には今後の日車協連工数の作成で参考にできる部分があるのではないかと期待している。
ドイツ版日車協連 ZFK
ZFK(Zentralverband Karosserie und Fahrzeugtechnik 直訳すると、車体と車両技術の中央協会)という、日本で言うところの日本自動車車体整備協同組合連合会連のような組織があり、ドイツの車体整備事業者の実情を尋ねました。
ZFKの解説は、今後の日本の未来を模索する良いきっかけとなりました。
日本のマーケット:1兆円、事業者数2.6万社(当会・プロトリオス調べ)
ドイツのマーケット:8,000億円、事業者数4,600社
日本のレート:6,632円(国産車 損保平均 全国見積もり事情パート2より)
ドイツのレート:180€(28,800円)
ドイツの労働環境:週40時間労働で残業はほとんど無し
日本の技術者の平均年収:417.2万円(令和5年度版整備白書 2023年の整備要員平均年収より)
日本の1年勤続者 平均年収:459.5万円
ドイツの技術者の平均年収:800万円前後
製造・サービス業部門の平均年収:799.8万円
日本の事業規模:5人弱(令和5年度版整備白書 2023年の1事業あたりの整備要員数 4.35人より推測)
ドイツの事業規模:15〜20人
保険は新車ディーラー等の販売店でしか販売しておらず、ドイツ国内で保険会社は80〜90社
アジャスターは外注の鑑定人がほとんどで、支払いを含めた仲介の会社と交渉することが多い
とにかくカーメーカーの力が圧倒的に強く、レートも工数もカーメーカー主導になっている。(例:ポルシェタイカンのレート450€、72,000円 ミュンヘン地域におけるポルシェのレートは280€ 44,800円。しかし、タイカンはEVで、先に示した通り高電圧回路の対策などに費用が掛かることから強気の価格設定となっており、それが受け入れられる市場となっている点に注目したい)
現地工場見学
1軒⽬ ブリリアント社
保険会社の⼊庫が98%を占め、
保険仕事が中⼼
2軒⽬ GP Karosserie und Lack社
2024年4⽉開業。
保険会社の⼊庫が30%
ディーラーの下請けが45%
直需が25%
GP Karosserie und Lack社の価格表
工場見学に行った2社のレートは180€(28,800円)前後でした。レートは表示義務があり、事務所の目立つところに掲載されていました。
しかし、保険の種類によっては90€にしているダブルスタンダードになっていました(ドイツには相手車両の修理・被害者の医療費・自身の医療費などをカバーする強制保険と、自分の車両を修理する任意保険が存在する。このうち任意保険は価格交渉が行われている)。
また、保険会社と仕事量のバーターをしている。(年間2億の仕事量を出す代わりにレートを低くしている。また、保険会社は入庫誘導した時、優先的に仕事をしてもらえる。それだけ車体整備需要が処理能力を上回っている状態であると考えられる。ちなみに2億の仕事が出せない場合は現金で補填される)
鈑金塗装の品質は2社ともイマイチ。スタッフの生産性も良くない(だいぶゆっくりと仕事をしている)それでも年間休日を含む労働時間と高い平均年収を払っても5%ほどの利益が出ているとのことで、工数とレートの違いも頷ける。
編集後記
今回、日本に居ながら聞いている情報を再確認したことよりも、実際に現地に赴き見聞きしたことは相違があると同時に、認識を改める必要を強く感じることとなった。また国や文化の違いとはいえ、同じ自動車を車体整備していてこんなにも違いがあるものかとショックを受けたと言っても過言ではありません。今後の日本における車体整備業界の在り方を考え直しつつ、これからも定期的に諸外国の車体整備の現状を把握する必要性があり、日車協連の事業として定期的なツアーの企画・開催をしていけるようにしたいと感じました。